「僕と、お付き合いをしてください。」
出会った時から伝えたかった思いをようやく伝えることができた。
ずっとずっと言いたかった思いを、一言にして彼女にぶつけた。
「・・・・・」
彼女の名は、ジェットストリーム(黒)。
なめらかな書き心地と、なによりその美しいフォルムに僕は心を惹かれたのだ。
ジェットストリームはどこか憂いに満ちた表情で口を開いた。
「ごめんなさい。私は、HaLuKaさんの言葉に応じることができません。」
そう言うと彼女は背を向けて去っていってしまった。
僕には彼女が僕にとって初めての「運命の人」だと思っていた。
文房具売り場で沢山売られているペンから、彼女だけを選んだのだ。
うまくいってくれれば、うまくいってくれれば何も言うことはなかったのだ。
しかしその日の僕には何も考えることが出来なくなっていた。
電車の窓から見える景色も、疲れた顔のサラリーマンも全て灰色に見えた。
彼女のいない世界は、こんなにも退屈だったのだ。
僕の何がいけなかったのか。それを考えることさえ憂鬱で、僕は冷たい布団に潜り込んだ。
朝。昨日の出来事が夢であると思うしか学校に行く方法がなかった。
彼女と目を合わせないようにして筆箱を開く。ジェットストリームは奥へ潜り込んでいた。
授業に集中することもできずにただ窓の外を眺めていた。何も考えたくなかった。
気が付いたら授業は全て終わっていて、人間の話し声が聞こえるだけだ。
いつもなら少し学校に残って部活動をしているが今の僕にはそんな元気などない。
さっさと帰ることにしたのだがどうやら筆箱が騒がしい。
筆箱を開くと騒がしい一番の原因が顔を出してきた。
彼女は、アクロボール(黒)である。
ピンク色に染まった体で筆箱の中で異彩を放つ。ジェットストリームとほぼ同等な書き味を誇るのだ。
「少し・・・話があるんだ。」
他のペンを押しのけて僕に言う。とても話せるような気分ではなかったがこいつが僕に話があるなんて珍しい。
バッグを置き、廊下へ出る。廊下のタイルを夕日が紅く染め上げる。
時計の秒針がリズミカルな寂しい音を奏でる。時計を眺めるともう6時になっていた。
アクロボールは不意に語り始めた。
「・・・HaLuKaはさ、ジェットストリームに振られたんでしょ?」
今一番触れて欲しくない話題だ。しかしこのことが話題に出ることは既に想定内だ。
表面上はなんともないふりをしながらそれがどうした、と聞いてやった。
アクロボールには一瞬だけ驚愕の表情が浮かんだがすぐにいつもの表情に戻し、さらに口を進めた。
「じゃあ、さ…」
「私となら…どうなの?」
※この物語はフィクションです。そしてまだ続きます。