全体的に中二病な桃太郎 後編
翁は桃から出てきた子供にモモタ=デシ=ディオニューソスと名づけ、わが子のように育てた。
また、銀河‘星雲’団をふたりが学んだ全ての情報、そして翁の神風流を教えていった。
・・・モモタは、数ヶ月で普通の青年のような風貌になり、神風流も会得した。
彼は桃から出てくる前のことを何も覚えていない。彼が地球人であるかも翁にはわからなった。
彼らは日々鍛錬を積む生活を続けていた。モモタは学ぶことに喜びを感じていた。
翁夫妻も今までのマンネリ化した生活にアクセントができ、毎日を楽しく過ごしていた。
・・・それから少したっていた頃、村にはとある情報が広がっていた。
「鬼が、住民を殺して食べている。」
その情報はどんどん広がり、ついに村のはずれにある翁たちの家にまで広がっていった。
・・・数日後の夜、翁の部屋へオキダが向かった。
オキダは磨ききったワイヤー銃を腰につけた革のホルスターから引き抜き、調子を確かめていた。
翁は美しく光を反射するまで磨かれた1m程の木ぎれを手に取ると、家から出ようと扉に手をかけた。
「・・・待ってください」
後ろから聞こえる若い声。モモタの声だった。
「僕も・・・僕も連れて行ってください。必ず役に立ちます。」
そういう彼の手には握るための布が巻かれた鉄の棒が握られていた。
「・・・お前には、まだ生きていて欲しい。聞く限り鬼は強すぎる。」
翁は、力なく答える。それに、モモタが食い下がる。
「僕は、あなたに神風流を教えてもらいました。僕は負けません。」
オキダが、翁に耳打ちをする。翁が深い溜息を付いたあと、オキダが言葉を発した。
「・・・しっかり捕まって。」
ワイヤー銃を片手に持ち、おもむろに引き金を引く。鉤爪は森の木に小気味良い音を立て突き刺さる。
もう一度引き金を引くと、3人の体は森に向かって空を切って移動する。
暗い森の中で光が見え、一瞬で光の中に入る。鼻を掠める潮の香り。数秒の間に彼らは森を抜けていたのだ。
砂浜にそのままの勢いで放り出される3人。オキダが鬼ヶ島を裸眼で探している間に少し休憩をとった。
波の音の中、翁とモモタはしばらくは黙っていたが、翁が静寂を打ち破った。
「…本当に、いいんだな?」
一定間隔で鳴り続ける波の音の中、翁はどこか悲しみに帯びた目をしていた。
モモタが無言で頷いたちょうどその時、オキダは鬼ヶ島を発見した。
少し斜め上に向かって発射されるワイヤー。数秒後に体がすごい勢いで引っ張られる。
十数秒ほど経った頃、砂浜に着地する。見た目はいたって普通の島だった。
「生き物の気配がしない…」
オキダが言う。確かに鬼どころか生き物の気配が全くしないのだ。
オキダが銃をホルスターにしまったその時、オキダに白い何かが光を出しながら突進しようとした。
強い風が吹き、白い何かが切り刻まれる。
オキダが振り向くと翁は美しく光る木ぎれを構えていた。咄嗟に神風流を使ったのだ。
3人が切り刻まれた何かを見るとそれは2人には見覚えのあるものだった。
「銀河‘星雲’団第一支部の歩兵ロボット…?」
第一支部はロボット関連に特化した部署で、銀河‘星雲’団の中では先頭が一番強いと言われている。
前回の銀河闘争で歩兵ロボットは全て壊れていたはずだった。歩兵ロボットに修理の跡が見える。
「そういえば…第一支部長の二つ名って…」
「〝戦闘の鬼…〟」
ズン、と地鳴りがした。修理された歩兵ロボットが10体ほど戦闘態勢でこちらへ向かってきたのだ。
歩兵ロボットが手からビームを出そうと手にエネルギーをためた一瞬のスキを翁とモモタは見逃さなかった。
暴風が吹き、砂が舞い上がる。
木ぎれを逆手に持った翁は高齢とは思えない身の裁きで歩兵ロボットを鉄くずに変えていった。
鉄の棒を握ったモモタは俊敏さはないものの歩兵ロボットのエネルギー部分を正確に貫いていった。
そうしてほぼ全てが鉄くずと化した頃、先程とは比べ物にならないような地鳴りが起こった。
歩兵ロボットの何倍もある背丈。重火器を装備してあるあの体型、獣のような四足歩行の体型…
「あれは‘鬼’の愛機、獣神アーヴァンクだ」
第一支部長通称〝戦闘の鬼〟は戦うことが好きで、銀河闘争にもこの「獣神」に乗り、自ら指揮をとった。
しかし彼の一番の問題は暴れると誰の言うことも効かなくなること。
「銀河闘争で負けて以来見ていないと聞いたがこんなところにいるとはね…」
音を立てて機械の拳が翁のもとへ落ちる。
ワイヤー銃でオキダが翁を間一髪助けたがあれを食らったらひとたまりもないであろう。
拳は続けてモモタにも降りかかる。間一髪で鉄の棒でいなす。また鉄の拳が降ってくる。
数分彼らは鉄拳をかわして、いなし続けた。
もうかなり年をとった翁には数分も戦っていれば避ける体力が残っていない。これが戦闘の鬼にとっての心のスキとなった。
戦闘の鬼の渾身の一撃。機会の全体重をかけて叩き込んだ鉄拳は翁に叩きつけられた、
神風が吹き、アーヴァンクの太い腕が切り刻まれる。バランスを崩し、もう片方の拳が地面に落ちた。
その振り降りた拳を駆け上がり、背中までモモタが到達する。彼が飛び上がったとき、神風が吹いた。
頭から真っ二つにされる機体。あわや翁が下敷きになるかと思われたがオキダのワイヤーでなんとか助かっていた。
「…この機械、どうしましょうか。」
モモタが頬の血を拭いながら翁に問いかける。
「…そうだな、持って帰ろうか。」
翁も、額に浮かんだ汗をぬぐって答えた。
終わり
最後に軽く説明をしますね。
翁の名前、クロノスは農地の神様、ダムキナは女神、ディオニューソスは豊穣の神様、アーヴァンクは幻獣でビーバーです。
まさかここまで長く続くとは思ってなかったし、長い割にそこまで面白くないってのが反省点でした。
ではまた。