オキダが家に帰ると既に翁は山のような枯れ木の中で一人煙管をふかしていた。
一部始終を簡単に説明すると翁はなんとも表現しがたい苦い顔でこちらを見て、一言を口から漏らした。
「・・・何かの卵という可能性がある。」
最も翁も思いつきでこのような事を言っているのではない。銀河‘星雲’団第三支部部長時代の経験だ。
そもそも銀河‘星雲’団とは一体どのような組織であるかを知っている方はいるだろうか。
簡潔に説明するならば宇宙警察、といったようなものだ。ただし、ただの宇宙警察とは違うところがある。
彼ら第三支部は侵略者をせき止める役割も持っている。銀河‘星雲’団の中でもパワーに優れているのだ。
翁が現役だった頃、生物兵器の卵を拠点に置かれて拠点が壊滅しかけたことがある。その経験なのだ。
「しかしまぁ、そういう可能性はなさそうですよ。」
オキダが反論をする。
オキダは銀河‘星雲’団の第二支部部長だったことがある。第二支部は生物関連に特化したチームだ。
先ほどの第三支部の拠点が壊滅しかけた際にオキダ率いる第二支部が決死の救助を行ったのだ。
オキダに言われては翁ももう何も言うことはできない。ううむと唸り、部屋の外へ行く。
・・・数分後、翁は風呂敷に包まれた50センチほどの棒状のものを持ち出してきた。
「この大きさならこれを使わないと切れないだろう。」
風呂敷を解き、中身を出す。中には美しい光沢のある木の棒が綺麗に包まれて入っていた。
軽く素振りをしたあと、桃の前に立ってどこからどこまでをどのような角度で切るかを決める。
深呼吸。目を閉じて、翁が目を開く。
刹那、着物の袖が揺れる程の風が吹く。激しい風が吹き止むと、桃が縦にまっぷたつに切られていた。
・・・彼、翁=デシ=クロノスが銀河‘星雲’団にて周りの者から一目置かれていた理由はこの独特な流派。
名を「神風流」といい、刃の付いていないどのようなものでも大抵のものを切ることができるものだ。
今現在この流派を使うことが出来るのは翁のみのあまりに難しい流派なのだ。
・・・桃が割れ、家中にあまりに芳しい桃の香りが漂う。
しかし、その香りの中に異質な香りがあったことをオキダは逃さなかった。
「・・・待って。中に・・・人が、いる。」
第二支部は生物に特化している。当時の訓練で目隠しした状態で生物を当てる訓練があったのだ。
オキダはその時の訓練で嗅覚を特に鍛えられたのだ。桃の中に交じる人の匂いなどすぐにわかるのだ。
それを聞いて驚いた翁がおもむろに木の棒に手をかけ、何も言わずに振り切る。
巨大な桃がスライスされ、桃色の中に肌色がうっすらと見えた。翁はまた振り切る。
神風が吹き、人がいると思われる部分がブロック状に切り出される。ここからは手作業となる。
桃の果肉を掘ると出てきたのは少し大きい幼児。子供のいない夫妻にとって嬉しい贈り物だった。
しかし、この幼児が彼ら夫妻の運命を変えることになることになるとは思ってもいなかったであろう。
でもそれは、明日書くお話。